こだわる男
トリプルファイヤー。アルバム「エキサイティングフラッシュ」にうわあなんかわかる…を感じた高校時代。大学を卒業して思う、陳腐な言い草だけどめちゃくちゃ母校っぽい。己に甘い、自堕落、グレてるわけではない、ただ眠い、パチンコがやめられない、社会に溶け込めない、俺は悪くない、通底している観念だけど、最近の作品はより俯瞰的で哲学的。
アルバム「エピタフ」収録の「こだわる男」にはゾッとしてしまった。詩。
「俺にはこんなこだわりがあるんだぞ」ってペラペラ喋ってる軽薄で人望のない男の姿が浮かんで哀愁を誘う。「職人こだわりの塩で天ぷら食べる」「小津安二郎を語らせたらうるさい」あたりさすがの鋭い観察眼、ちょうどいそうなウザさ。だれからも選ばれてない奴がなにかを選ぶ対比、サビで自己分析がしっかりできてるのも超切ないけど、真髄はこのあと。Aメロ→サビで展開してたとこにBメロが出現、
誰にも選ばれてなくても
特別な才能なんてなくても
職人こだわりの塩で天ぷら食べれる
職人こだわりの塩でないと 天ぷらなんて
塩でないと 食えたもんじゃない
最後は男の負け惜しみ捨てゼリフだと思っていたけど、これ「天ぷら」を自分に、「塩」をなけなしのこだわりに喩えてないか?
なんの取り柄もない俺にはこだわりを持つことしかできない、こだわりすら持たなくなったら俺は生きてることさえ許されない、という叫び。
怖くなる。ここまで哀れな男をクスクス笑いながら聴いてたけど突然怖くなる、お前はどうなんだ?お前は天ぷらじゃねえのか?
吉田さんは多分こんな含みなどなくこの詩を生み出しており、とんちんかんな邪推に「…違いますね。特に意味はないです」とか言いそう。この勝手なイメージすら的外れだと思われて笑われそう。そこが好きだ。背中を押すとか音楽でなにかを変えるとかなんも気負ってなさそうな醒めた目が。